HPがリニューアルし、ボリュームが増えました。建築から人の営みを見つめたり、循環型社会の実現に向けて多様な視点から発言したコラムです。
過去に発表したものもありますが、ご一読いただければ幸甚です。
よみがえる古民家(1)
サスが青空に向かって立ち上った。谷川岳の見える場所に古民家を建てたいとの要望をT氏から相談されてから時は大分すぎた。近隣で空家になっている古民家や、建築関係者の情報提供に基づいた古民家を何度となく調査した。それでもT氏の希望を満足させる家にはなかなか出会うことが出来なかった。結果につながらない時間だけが過ぎて行った。
筆者の情熱も冷め始めたころ大工仲間から150年ほど前に建てられた養蚕農家を壊し、新しい住宅を建てるとの話が飛び込んできた。T氏は3時間もの時間をかけ、何度となく足を運びその家を観察し続けた。その結果、「今まで見た中では一番希望に近い」との認識をT氏と筆者は共有出来た。奥利地方特有の兜つくり(赤城型民家と呼ぶこともある)で、外観を特に気に入ったようであった。
古民家再生には、大きく分けて現地再生・移築再生がある。その中には部分再生や部材利用もあるが、今回のプランは移築再生の典型であり構造材のほとんどを利用することになる。一本一本実測し、番付けを振り、丁寧に解体運搬しなければならない。
組みだけになっているわけではないので、果たしてこの家が希望の古民家再生につながるか一抹の不安を抱えたまま解体作業に入った。(河合純男)
共著「よみがえる蔵 全国再生事例44選」日本民家再生協会編 丸善出版 平成24年
共著「民家再生の魅力 全国・事例集」日本民家再生リサイクル協会編 相模書房 平成15年
「自然の権利」基金通信 http://www.f-rn.org/に連載中です